リノベのトレンド
2020.02.14
実は定義がない?!「数寄屋建築」とは住む人が好きに造るもの
「数寄屋建築(スキヤケンチク)」とは何か?という問いに答えるのは簡単ではありません。旅館や料亭を思い浮かべる方も多いと思いますが、実はこれといった定義もないのです。現に多くの住宅メーカーも「堂々たる日本建築」といったフワフワしたニュアンスで自社の製品を数寄屋建築と呼んでいるようです。
ここではまず元祖とされる千利休の茶室「妙喜庵・待庵」における、数寄屋建築の特徴を見ていきます。その後どのように発展したかをあわせることで、数寄屋建築とは何かを考えていきましょう。
数寄屋建築の始まり
「好き」と同じ語源を持つ「数寄(すき)」は芸道に熱心なことを指す言葉で、戦国時代には主に茶の湯の世界で用いられるようになりました。数寄者は茶人、数寄道具は茶道具、数寄屋といえば茶室を指していたのです。
当時の武家たちは、格式や様式にガチガチに縛られた書院造を好んでいました。対する茶室(数寄屋)はもっと自由なもの。手がけた茶人の美意識を強く反映したものとなったようです。それでは元祖数寄屋である、千利休「妙喜庵・待庵」を見ていきましょう。
待庵に見る数寄屋の特徴
茶席はたった2畳、高さは5尺2寸ほどという狭小な荒壁で囲まれた空間に、這わなければ入室できない「にじり口」を設けるなど斬新な構造を持つ待庵は、千利休が考える茶の湯を体現したものと言われます。しかし待庵=現代の数寄屋建築か?というと、あまりにも独創的すぎますから決してそうとは言い切れないでしょう。
・多彩な建材を用いる
・書院造を簡略化した床の間
・深い庇(ひさし)
待庵の特徴で現代の数寄屋建築にも通じているは以上の3つくらいでしょう。
多彩な建材を用いる
四角に削ってしまわずに丸みを帯びたままの杉、庶民の住居に使われていた竹など多彩な建材が待庵では用いられていますが、現代の数寄屋建築でも住む人の要望通りの建材を用いることは良くあります。特に床柱に凝ったりしますよね。
書院造を簡略化した床の間
書院造の床の間は大きさや床柱の材質などに決まりがありましたが、待庵では守られていません。現代の数寄屋建築でも照明を仕込むなど、新しい趣向が凝らされた床の間を見かけます。
深い庇
室内に陰影を与えるために待庵には深い庇が設けられているのですが、庇は現代の数寄屋建築でも踏襲されています。夏の強い日差しをさえぎるのに向いていますし、軒天の造作は日本建築の面白さのひとつと言えるでしょう。
数寄屋建築の発展
江戸時代になると、待庵と並んで「国宝茶席三名席」として賞されている2つの茶室、小堀遠州「龍光院・密庵」、織田有楽斎「有楽苑・如庵」が造られます。密庵は書院造の様式との融合を目指しているかのようですし、如庵には有楽斎ならではの意匠があちこちに散りばめられるなど、待庵をそれぞれの工夫で発展させたものとなっているようです。
つまり数寄屋建築は、その成り立ちからして共通点がさほど見られません。強いていうならそれぞれを手がけた茶人の趣味が色濃く反映されていることくらいでしょうか。
また密庵や如庵に少し遅れて完成した「桂離宮」も代表的な数寄屋建築として知られていますが、こちらは公家ならではの豪華さや格調の高さを加えたものとなっており、手がけた八条宮智仁、智忠両親王の趣味が色濃く反映されていると言われています。回遊式と呼ばれる大規模な庭園と調和を見せているのも桂離宮の特徴のひとつでしょう。
近・現代の数寄屋建築
その後、数寄屋建築は遊郭や料亭、町民の住宅などに取り入れられていくのですが、明治時代になり西洋をありがたがる風潮が起こると、次第にすたれてしまいます。一方で数寄屋建築を高く評価したのが外国人でした。
たとえば1880年生まれのドイツ人建築家・ブルーノ・タウトは桂離宮を高く評価した一人です。翻訳された彼の著書「ニッポン」は、数寄屋建築の良さを日本人に再発見させることにもなりました。
タウトと同時期に活躍した建築家・吉田五十八は、数寄屋建築を近代化したことで知られています。具体的な手法は、柱が壁に露出しない「大壁造り」の採用や、マスの目が粗かったり横桟のみの障子の採用、欄間(らんま)の省略など、手間がかからない近代数寄屋建築を広め、現代の和風建築にも強い影響を与えていると言われます。
また明治から昭和にかけて活躍した作家・谷崎潤一郎は「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」で数寄屋建築をとりあげて賞賛。障子を通して入る光や暗く沈んだ床の間に、日本伝統の美を見出して表現しているとされます。
まとめ
書院造が「和室の原理原則」と紹介されることが多いことに対して、数寄屋建築は原理原則を崩したもの、住む人の好みを反映したものといえるでしょう。
つまり間接照明に照らされた床の間や琉球畳、珪藻土壁などを用いたモダン和風を数寄屋建築といってしまうこともできますし、ご自身の趣味が充分に反映されたリノベーション後の空間も数寄屋と呼ぶこともきるのです。
しかし何でもかんでも数寄屋になってしまうのは都合が悪い、だから堂々たる日本風の建築を一般的に数寄屋建築と呼ぶ傾向があるようです。しかし数寄屋建築もリノベーションも数寄を凝らすという点では同じことに感じるのではないでしょうか。